大判例

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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)158号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決にこれを取り消すべき違法の点が存するかどうかについて検討する。

1 成立について争いのない甲第二号証(本願発明の特許出願公告公報)によれば、本願明細書の特許請求の範囲には、前示当事者間に争いのない本願発明の要旨のとおりのこと(事実摘示第二の二参照)が記載されており、本願発明は右のとおりのことを要旨とするものと認められるところ、成立について争いのない甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例には審決認定のとおりの始動補助導体を付設した高圧ナトリウムランプが記載されているから、本願発明と第一引用例の発明とを対比すれば、両者は、本願発明の高圧ナトリウムランプが始動後には始動補助導体によつて与えられたアルミナ発光管外壁の電位が取り除かれるように熱応動する熱応動体を備えるのに対し、第一引用例のものはそのような熱応動体を備えない点において相違し、その余の構成は全て同じくするものであることが明らかである。しかして、本願発明において右のような熱応動体を備えるとの構成は、熱応動バイメタルスイツチを始動補助導体と対向電極とを接続する回路中に挿入して、その熱応動によりランプ始動後に右回路の接続を断ち、始動補助導体に対向電極の電位を印加しないようにすることによつて充足されるものであり、前掲甲第二号証によれば、本願明細書にも、本願発明の実施例として、右のように熱応動バイメタルスイツチを挿入して、ランプ始動後に始動補助導体に対して対向電極の電位を印加しないようにするものが記載されているものである。

2 ところで、前掲甲第三号証によれば、第一引用例には、高圧ナトリウムランプにおいて発光管外壁端部に対向電極の電位を印加した導電物質を付着する(本願発明の始動補助導体を備えることに相当する。)のは、かかる導電物質を付着させない従前の高圧ナトリウムランプにあつては、通常の低電圧規格の安定器のほかにランプを始動させるために必要とされる高電圧を発生させるための始動補助装置を必要としていたのを、該始動補助装置を不要ならしめるためであつて、前記導電物質を付着させることによつて安定器の開放電圧でランプを始動させることができるようになる旨が記載されている。してみれば、第一引用例の記載から、当業者は、第一引用例における導電物質はランプの始動補助のための部材であつて、これに対向電極の電位を印加することはランプ始動時に必要とされるにすぎず、始動後にはこれを必要としない旨を容易に理解できるものと認められる。しかして、ある部材に一定の電位を印加するような場合、これを必要とするときに限つて電位を印加するようにすることは、一般的な技術常識に照らし、当業者が設計するに当たつて当然考慮する事項であると認められるのみならず、前掲甲第二号証によれば、第一引用例の発明のように始動補助用の導電物質(始動補助導体)を付設した高圧ナトリウムランプを、該始動補助導体に対向電極の電位を印加したまま点灯し続けると、ランプの寿命中に、始動補助導体を付設された部分でアルミナ発光管が斑点状に黒化して光束が著しく低下してくるとの現象を生じてくるものであることが認められるところ、そのような現象が生来することは単なる実験、観察によつて認識し得るものであることを併せ考えれば、第一引用例の発明の高圧ナトリウムランプにおいて、ランプ始動後にはその始動補助導体に対向電極の電位を印加するのを断つようにする程度のことは、当業者が容易に推考できることと認められる。

3 これに対し、成立について争いのない甲第四号証(第二引用例)によれば、第二引用例には、メタルハライドランプにおいて、始動補助用の補助電極を一方の主電極に接近させて付設し、ランプ始動時には該補助電極に対向電極の電位を印加し、始動後には補助電極に対向電極の電位を印加する回路中に挿入された熱応動バイメタルスイツチの熱応動によつて該回路の接続を断ち補助電極に対向電極の電位を印加することを断つことが記載されているのであるから、第一引用例の発明の高圧ナトリウムランプにおいて始動後に始動補助導体に対向電極の電位を印加するのを断つ手段として、第二引用例に示された技術、すなわち、熱応動バイメタルスイツチの熱応動によつて電位を印加する回路の接続を断つことを採用することは、格別の困難なことはなく当業者において容易になし得ることと認められる。

4 してみれば、本願発明は、第一引用例及び第二引用例の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断に誤りはない。

原告は、高圧ナトリウムランプとメタルハライドランプとは別種のランプであり、前者の始動補助導体と後者の補助電極とでは構造や機能が異なり、更に、これに点灯後も対向電極の電位を印加し続けた場合に生じる悪影響の内容や原因も異なる旨を主張するが、仮りに両者の間に右のような相異点があるとしても、そのことが第二引用例に熱応動バイメタルスイツチの熱応動によつて電位を印加する回路の接続を断つ技術が開示されているものと認めることの妨げとなるものではなく、この技術を第一引用例の発明と組み合わせるに際し、メタルハライドランプには存在しないが高圧ナトリウムランプにおいては存する特有の解決課題が生起してこれに対処する構成が必要となるというのなら格別、本願発明は単に第二引用例において開示された補助電極に電位を印加し続けることによつて生ずる悪影響を取り除くという技術を採用したにすぎないものであると認められるから、原告の、本願発明と第二引用例との差異点の主張について、これをことさら判断する必要はない。

三 以上のとおりであり、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

両端部に電極を有し内部にナトリウム、緩衝ガス用金属及び始動補助用ガスを封入した透光性のアルミナ発光管と、前記アルミナ発光管の少なくとも一端部においてこのアルミナ発光管外壁に付設された非加熱体である始動補助導体と、始動時には前記始動補助導体が一方の電極の対向電極に接続されて、前記始動補助導体に前記対向電極の電位が印加され、始動後には前記始動補助導体によつて与えられた前記アルミナ発光管外壁の電位が取り除かれるように熱応動する熱応動体とを備えたことを特徴とする高圧ナトリウムランプ。

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